虫の音
先日、横浜までドライブをしてきました。
向かった先は『港の見える丘公園』。
そこは、自然農法の提唱者である福岡正信翁の
運命を変えた場所。翁が25才のとき、横浜税関
の植物検査課で研究をしていたころ、急性肺炎
で死の淵をさまよったことをきっかけに苦悶か
ら抜けられず、この公園の大きな樹の根元にも
たれ、夜が明けるのを、うつらうつら見ていた。
すると、崖下から五位鷺が一声するどく鳴きな
がら羽音をたてて飛び去った瞬間に、あらゆる
混迷の霧が消え失せ、ただ一つのことがわかっ
たのだそう。それは、「この世には何もないじ
ゃないか」ということ。ある、と思い懸命に握
りしめていたものは、じつは何もない、自分は
ただ、架空の観念を握りしめていたにすぎなか
ったと。一切が虚像であり幻想であって、それ
を捨て去ったところに、実体というものが厳然
としてあったということを。
というわけで、私にもなにか感じるものがある
かも?!と、わくわくしながら公園へ出かけた
わけ。公園の名のとおり、展望台から見渡す港
の景色は解放感があって、心地いい風が吹き、
気の流れのバランスよさを感じる場であること
に間違いはなかったです。
公園内には、フランス領事館跡地のフランス山
と、イギリス総領事館邸であったイギリス館が
あり異国情緒が感じられます。また、イギリス
館の中に保存されていた横浜家具、英国式庭園
のローズガーデンなどからは、横浜港開港にと
もない、さまざま西洋文化が日本にもたらされ、
近代化へと取り組んだ当時の人々の思いと、そ
の歴史も感じられました。
夕べの風に秋を感じ、虫すだく頃。
この虫の音に情緒を感じるのは日本人特有なの
だとか。音の感じ方が日本人と外国人では違う
のだそう。日本人は左脳(言語脳)で捉えるのに
対し、外国人は右脳(音楽脳)で捉えるそうで、
虫の音を「虫の声」とするか「雑音」とするか
は、脳内の処理がもたらす相違なのだそう。
それには、日本語が母音で言葉を形成すること
が多いためであり、日本人の脳というよりは、
日本語の脳ということになるのだそうです。
そのように、人が抱くさまざまな感慨には、
音の感じ方の影響があるということがわかりま
すが、福岡翁が五位鷺の一声で開眼したことも、
なるほどよくわかります。
どうやら台風が近づいているよう。
でもしばらくは、すだく虫の音を楽しめる季。