春の雲
過ぎゆく桜の花時に、一抹の春愁をふくみ
つつ、春の日は遅々としてゆるゆるしたペ
ースがちょうどよく感じます。
教室では、児童生徒に硬筆ノートの宿題を
出していますが、どの学年からスタートし
ても『いろはうた』、次は『枕草子』の順
に書きます。
『枕草子』は平安時代中期に一条天皇 中宮
定子に仕えた清少納言によって執筆。
はじめに春夏秋冬を取り上げているのは、
『古今和歌集』から続く勅撰和歌集の伝統的
な形式であり、そのなかで天象である陽、月、
雲、雨、雪、霜を取り上げているのも、漢文
の素養があってこそ。
細やかな視点と豊かな表現で綴り、日本語の
美しさを存分に感じられるみごとな随筆です。
「春は あけぼの やうやう白く なりゆく山ぎは
すこしあかりて 紫だちたる 雲の細く たなび
きたる」
しっとりと色彩豊かに明けゆく春暁の情景描写
がまことに心地よいですが、たんに自然の美し
さを綴っただけでなく「紫だちたる雲=瑞雲」
のように、随所に天皇と中宮 定子をたたえる
清少納言の思索が色濃くふくまれていると知る
ことで、この春の雲へのとらえかたは格別なも
のとなります。
いつもの蕎麦屋の掛け物