初硯
清々しい新年の初め。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
お正月を迎え、一年の計を書に託された方も
いらっしゃることでしょう。年頭に、あらた
まった気持ちで筆を執るのは身がひきしまり
ます。書初めもそうですが、さまざまあるお
正月のしきたりには、先人が磨きあげてきた
招福を寿ぐ喜びと祈りが宿っているようです。
今年も2日に初硯。
3日から京都へ出かけてきました。
念願だった石清水八幡宮に初詣して、宇治の
興聖寺でお写経をしてきました。
石清水八幡宮での初詣のあとは、明治維新ま
での神仏習合の跡が色濃く残る境内を散策し
ました。そこには、寛永の三筆の松花堂昭乗
が住職をしていた瀧本坊跡や、晩年の侘び住
まいをした泉坊松花堂跡があります。
松花堂昭乗は、瀧本流・松花堂流という書風
を確立、人物・花鳥・山水画においても高い
評価を得ています。また、茶の湯にも親しみ、
小堀遠州や近衛信尋、沢庵和尚などとの交流
があったことでも知られていますが、誰もが
知るのは、松花堂弁当でしょうか。
そんな松花堂昭乗の史跡も見てきました。
宇治の興聖寺では、手入れと掃除のゆきとどい
たお庭、お寺のなかも気持ちよく、受付も兼ね
ている庫裡の奥では、大きなおくどさんから立
ちのぼる湯気があたたかで、ほんとうに素晴ら
しいお寺でした。そこの一室、達磨大師の掛物
の前で正座して『般若心経』を写経する静寂な
時間は貴重でした。
旅行へ出かけるとき、いつでもできるようにと
筆硯や墨などを持ち歩くほどお写経が好き。笑
そんなお写経の歴史は古く、日本書紀に「書生
を聚めて、始めて一切経を川原寺に写す」とあ
るようですが、心身をととのえ、ご供養や祈り
願いを暮らしにいかす証でもあります。
松の内にゆっくりと京都を旅行し、自分を見つ
め、いろいろを考える機会となりました。
あらためて、今年も書の楽しさと奥深さを伝え
られるよう自らの研鑚を怠ることなく、お一人
おひとりにあう丁寧な指導に努めてまいります。
皆さまにとりまして、佳き年となりますことを
心よりお祈り申し上げます。