みる
「何と書いてあるかわからなくて…」
書の展覧会へお出かけくださった方から
よくこのような感想をいただきます。
文字があるとついそれを読もうとしてしま
うのは誰もが同じ。ただ、書いてあること
を読まなくとも、もっと感覚的に、もっと
自由に、自分の眼と心で想像し鑑賞して楽
しむことがなによりも大事であろうと思う
のです。書き手の筆づかい、線の質、運筆
の速度や墨の濃淡、空間などなど、見どこ
ろはたくさんありますから、楽しみかたも、
一人ひとり違っていいし、むしろそのほう
が自然です。自分自身の意志や本質、感覚
を信頼することではないかと思います。
今年の3月に逝去なさった美術家の篠田桃紅
さんの展覧会には、作品キャプションの設置
がないのが特徴です。4月に横浜で開催され
ていた篠田桃紅展でも、やはり設置はなく、
それがないのは、「何と書いてあるか」の
情報による先入観が生じないようにとのこと。
作品キャプションを拠りどころとすることな
く、そこから何を得るのか、いろいろ思考し
たり想像したり、自分を信頼して、ただじっ
と作品と相対する時間は、自己を見つめる
時間にもつながるのではないでしょうか。
今週より同人書作展が会期を迎えます。
今年は、大溪洗耳先生の特別展示も見どころ
のひとつです。私は、やまぶき色の染め紙に
古典かなで、萬葉集四首を書いて出品してお
ります。このようなご時世ではあるけれど、
ひとときお楽しみいただけましたら幸いです。